日々これ怪異銘板

日々これ怪異 喧嘩別れの家

 二つ前に住んでいたマンションでの話である。

 その築二十年のマンションの二階にある角部屋は、朝日が差し込む素敵な部屋だった。2DKだが、駅にも近く、新婚家庭に最適なので、毎年新婚さんが移り住んで来る。そんな部屋だった。

 毎年新しい新婚さんが引っ越して来るには、毎年、前の年の新婚さんが出ていかねばならない計算になり、なるほど実はその通りであった。

 春、人事異動の季節になると新婚さんが入る。傍目にも仲睦まじい微笑ましいカップルが。一年経つとご近所が皆飛び出して来るような大ゲンカをやり、次の週には部屋は空っぽになる。もちろん喧嘩別れしたのだろう。そして次に入るのもうらやましくなるようなオシドリカップル。

 毎年、同じ光景が繰り返される。喧嘩別れの家。

 この部屋にどのような因縁があるのやは知らぬ。そもそもそんな現象を引き起こす力とはどんな力だろう。だが、そこには事実だけがあり、そしてその事実は、隣数件しか知りえぬ事実である。
 人が死んでいるわけではない。だから大家にも不動産屋にも告知義務はない。もちろん入居者がこんなことをご近所に聞き込みするわけもなく、たとえ聞かれたとしても、ご近所が話すわけがない。

 だが、その結果は重大なものである。

 このような家は他にもあるのだろう。それが土地の持つ因縁かどうかは謎のままだが。決して誰の口にも上らぬ、ちょっとした悪意そのものが結晶化したような場所が。

 悪所とでも名付けておくのが正しいのかも知れない。