【魔法。その原理と実践】
ウィザードリイのダンジョンの中では魔法は極めて一般的なものである。だが、街の中ではそれほど一般的ではない。
そのために魔法に関して誤ったイメージを持っている人々が増えている。
今回はこれについて述べよう。
※魔法大学はピショップ協会ほど秘密主義はとっていない。魔術師を辞めた人間にも魔法の使用を認めているほどなのだから。この点を強調。新規会員一人につき金貨十枚入ることを忘れるな。
一般に魔法の使用時は「ティルトウェイト!」や「マカニト!」の様な一言で魔法が使用されていると考えられている節があるが、これは間違いである。非常に複雑なプロセスの制御を必要とする魔法をそれほど簡単に引き起こすのは基本的に無理なのである。
もし、それほど簡易に且つ短く魔法が使えるならば、誰も戦士になることは無いであろう。敵に接近して切り込むよりも、「マダルト」の一言の方が早いのは明らかであるから。ところが現実には、よほど素早い魔法使いでも、新米の剣士に切り殺される例が後を絶たない。
魔法をかけるのにはどうしても詠唱時間がかかるためである。
通常、魔法の使用には次のプロセスが必要とされる。
精霊の呼出し、力の変換、対象の指定、発動の四プロセスである。
精霊の呼出しは簡単に言えば、地水火風の四大精霊の内の幾つかを呼び出すということである。
※空の精霊もいるにはいるが、まだ応用方法が明確では無い。軽く研究費の寄付を募ること。うまくいった場合には空を飛べるようになることも強調せよ。
これら呼び出された精霊は、魔法を行うときのパワー源となる。魔術師のレベルに従い、呼び出される精霊の大きさや数は変化する。そのためHALITOを使用できる魔術師でも、同じ火の精霊を召喚するMAHALITOが使えるとは限らないわけである。
精霊には倒した敵の生命力のいくばくかを契約に従い渡すことになる。
次のプロセスは力の変換である。これは呼び出された精霊の力のタイプを指定する行為である。火の精霊一つ取っても、光・熱・爆発の3種に効果が分類される。これらは互いに関連し、どれか一つのみを使用することはできないものであるが、変換タイプを指定することで必要とされる性質を増大させることができる。
光ならLOMILWA、熱ならMAHALITOなどに変換される。
三番目の対象の指定は魔法の効果の対象(それは通常はモンスターであるが)を指定することである。大火炎のマハリトをモンスターの全グループに浴びせていたのでは、彼らの血に濡れた毛皮を乾燥させるぐらいの役にしか立たない。
対象の指定は使用可能な力の量に合わせて正確に行わなくてはならない。
※ここで軽く魔法のゼスチャーを。特に講義中に寝ている不届きな学生を目掛けてすること。
最後の発動のプロセスは、設定された魔法の効果の発動を引き起こす。このプロセスは決められたゴーサインを出すだけのものであるが、実はもっとも重要なプロセスである。例えば、雷撃呪文のメリトには、風の精霊と、水もしくは土の精霊のどちらかを召喚する(風により水または土の粒子をこすりあわせて電撃を溜めるのだ)が、精霊の召喚と同時に魔法が発動していたのでは、期待される効果はまず起せないだろう。風の精霊が大騒ぎを引き起こす中で水の精霊を呼び出せるものはまずいないのだから。
この発動のプロセスは通常使用する魔法に割り付けられた名前をキーワードとする。
つまりはこれが「ティルトウェイト!」とか「マカニト!」なのである。
近距離で魔術師が魔法を唱えている場合には、剣士は剣で魔術師を叩きのめすことで魔法を妨害することも可能である。しかしながら魔術師が魔法を使用する場合には、必要とされるイメージの正確な運用のために一種の催眠状態に入っているために、魔術師を完全に気絶させるか殺す以外には剣士は魔法プロセスを妨害することはできない。
ちなみに静寂呪文のモンティノは魔法の発動のプロセスを妨害する。そしてアンチマジカルフィールドは精霊の召喚を妨害することで、魔法のプロセスを妨害する。
※寝ている観客はいないな?
さて、外部の者にとっては魔法のプロセスはどのように見えるだろう?
※軽くマジックミサイルを撃ってみせること。ただし観客には命中させぬこと。
最初の精霊召喚のプロセスでは、呼び出される精霊の種類と大きさにより、風の流れや揺らめく炎、霧などが感知される。熟練した冒険者はこの時点で魔法の大体のタイプを特定できる。ただし、HALITOとMAHALITOの様な同様な原理で動作する魔法は精霊の大きさが特定されるまでは識別は不可能である。このときの術者は呼び出した精霊に自分の身分及び契約者名を示す秘密のサインを手振りで示す。
※ここででっかいでっかい炎の精霊を呼び出すこと。何と言っても迫力がある。
次の力の変換では、精霊が力を指定された形に変えるのが明らかに判る。MILWAの魔法では、揺らめく炎の精霊の光輝が強まっていくのが観察できる。このときの術者は精霊に口頭または決められたサインを示す。
※大きくゆっくりと動く。催眠術の基本じゃ。
攻撃対象の指定では、術者は対象を指さす形で指定する。この段階ではどのグループが狙われているかは明らかとなるが、次の発動のプロセスまでは非常に短いので避難する役にはまず立たないだろう。
※観客席のど真ん中を指定する。きっと驚くぞ。
最後の発動のプロセスは術者が大声で魔法の名前を呼ぶ。この部分は身振りでも可能なのではないかと思うが、恐らくは舞台効果のためにこうなっているのだろう。
それを逆手に取って静寂呪文モンティノが開発されたのだが。自信満々の魔術師が、モンティノを食らって慌てている様は、殺伐としたダンジョンでの心暖まる見ものとなっている。
※光の呪文ロミルワを発動。部屋を照らすだけ。観客の目を潰さないように。驚かすだけ。いいか、程ほどにじゃぞ。
魔法とは、そもなんぞや?
※一呼吸おく。観客に質問を考えさせること。
それは世界に対するわがままである。己の望みの通りに世界を操ろうとするプロセスこそが魔法なのである。
獣より早く走りたい、鳥のように空を飛びたい、死者を生き返らせたい。
そんな思いこそが、魔法を形作り、成長させるのである。すなわち、当大学では、我が侭のやり方を教えているわけである。これはあまり誉められたことではない。
だが・・・駄田っ子結構。甘えん坊結構。それでいいのである。
世界がそこにあるのに、我慢して指をくわえて、何になろう?
世界が我らの意志に従うのならば、従わせればいい。
ここで私は声を大にして、この講座を受けに来ている諸君に言おう。
「突き進め。魔法を持って。ダンジョンは君達を待っている」
御静聴を感謝する。 ---キリア・イブド・メソ
※拍手が無かったら、ここで大きなファイヤーボールを演台のすぐ前で爆発させること。
観客の前髪が焦げようが、知ったことか。