【ビショップの聖別について】
ウィザードリイと呼ばれる、我々の世界の職業の中で、一番使えない職業は何かと諸君に問えば、どのような答えが帰って来るだろうか?
無論のこと、職業には貴賎は無い、が、必ず諸君はこう答えるだろう。「ビショップ!」と。
※聴衆の反応を確かめること。ビショップ職が多ければ、何とかごまかして別の話題に振ること
ビショップほど、ダンジョンの中の戦闘で役に立たない職業は無い。武器は中途半端、魔法は役立たず、クリティカルヒットも罠の回避能力も無い。が、それでもビショップは冒険において欠かせない重要な職業である。それは何故か?
そう、アイテムの聖別である。ビショップは、この特異能力一点のみで大事にされている存在であることに異論は無いであろう。そのためにビショップ協会は、この聖別能力に関しては実に厳しい秘密主義を取っている。ビショップになったものには完全な沈黙の誓いを強要される。更にビショップを止めて他の職業に付く場合には、聖別方法に関する記憶を消去される。
こうして今でも、ビショップの聖別のやり方については、ビショップ以外の誰も知らないのである。だが、探り出すことは出来なくても、推測することは出来る。もし、聖別能力が万人の者になれば、どれだけのパーティに取って福音となるであろうか。
考えても見なさい。
※ここで少し間を置き聴衆の反応を見ること。
※利益のさらなる強調が必要か?
そこで、この若輩キリア・イブド・メソが少々手助けをしよう。
願わくば、知恵の女神の祝福が我らにありますように。
※講義場所上を監視。ここで知恵の女神の何らかの動きがある可能性がある。
では、身近な現象から、始めて見よう。
ビショップの聖別が失敗すると、ある顕著な現象が現れる。そう、呪われたアイテムが取れなくなることだ。この時、これらのアイテムはきちんとあるべき所に納まる。
ナイフの類がビショップのお尻にくっついたり。また鎧が右手に張り付くということはない。では、例えば、鎧の聖別に失敗した場合、呪われた鎧は泣きわめくビショップの頭をポカリとやって、気絶したビショップの鎧をいそいそと脱がし、それから改めてビショップに装着するのだろうか?
アニメの世界では面白い光景だが、もしこれらの動きを現実の冒険者の前でやったりしたら、誰がビショップなどに成りたがるだろうか?
※アニメ 他の国より流れ物が持ち込んだこの芸術はやがてウィザードリイにも広まるだろう。ダンジョンの中でミッキーマウスに出会う日も近い! という掴みはどうだろう?
これらの事実から、ビショップの聖別に関して、次の事が推測できる。すなわち、ビショップの聖別においては、ビショップはそのアイテムを実際に装備しなくてはならない。
※ダンジョンでの聖別のときにビショップが隅でゴソゴソしているのはそういうわけなのだよ。果たしてネタとして使えるか?
ここで、さらに次の疑問が生まれる。このとき、普通の冒険者ならば、たちまち呪われたアイテムを装備したことになり、アイテムが取れなくなるが、ビショップは如何にしてこの状況を切り抜けているのか?
お答えしよう。それは所有の概念なのだ。通常、冒険者がアイテムを装備したとき、このアイテムは俺の物だと思う。この意志のひらめきを持ってアイテムの呪いが発動するのだ。これは呪われたアイテムの常套手段である。なぜか?
例えば冒険者が杖の先でつついただけで呪いが発動していたのでは、どんなに愚かな冒険者でもアイテムの呪いに気付くだろう。そしてアイテムのくっついた杖を捨てて厄介払いをするわけだ。この様な状況を避けるために、呪われしアイテムには、本来の装備状態になるまで呪いが発動しない遅延ファクターが組み込まれる。ところが今度は例えばマネキンに呪われた鎧を着せて呪いが発動していたのでは、これも無意味である。生体感知機構をつけた場合は、奴隷をダミーとして使用されて、これも初期の目的を達成できない。そこで重要なのが所有の概念なのである。奴隷もマネキンも、アイテム装備の際に「これを所有した」とは考えない。そのアイテムの真の持主、つまり譲られたにしろ、拾ったにしろ、奪ったにしろ、買ったにしろ、真の持ち主だけが所有の概念を抱く。こうして呪われたアイテムは正しく復讐の相手を見つけるわけだ。
※貴族の奥様方が多ければ、ここでカント寺院のマーニー主催のミサを奨めること。
お手頃価格であることも特に強調すること。
では、ビショップは?
ビショップは如何にして呪いの発動を防ぐのだろう?
それは恐らく次のようなメカニズムで作動するのだろう。ビショップはアイテムを装備状態にした後、己の心を所有の概念に近いものに、アイテムの呪いが発動しかけるぎりぎりまで持っていくのである。
このとき、高価なアイテムに見られるように、呪いの発動識別機構が正確すぎて、ビショップが正しく所有していると見なされないときは「聖別は失敗」したとなる。
この場合には当然のことながら、アイテムは所有されない状態であり、酒場のテーブルなどに切りつけて、この短剣は「ダガー+1」だなどとアイテムの能力を調べることはできない。
一方、ビショップが失敗して完全なアイテム所有の概念を持ってしまった場合には、呪いは完全に発動しビショップは惨めな状態となる。この最悪の例としては、非常に高度な呪いの鎧を着てしまったビショップの話がある。彼は当然ながら、他の冒険者達に敬遠されて冒険には誘われなくなり、そのためアイテムを除去するだけの金が何時まで経っても払えなかった。彼は死ぬまでの間の五十年間に渡り、その鎧を寝るときも着続けることになった。臭くなった鎧を一生着続けたこのビショップが結局独身のまま世を去ったのは言うまでもない。
※笑いを取れたか?
(やれやれ、一般人というものは)
さて、呪われたアイテムはボルタックの交易所で、除去して貰うことが可能であるが、このために必要な金額は非常に高い。あまりにも金額が高いのでWIZ保険組合では、呪われたアイテムに関する契約は普通は受け付けないほどである。この値段の高さはボルタックの強欲のせいであろうか?
実はこれは違う。一般に呪われたアイテムを所持者に致命的なダメージを与えることなく効果を消滅させるには膨大な力がいる。呪いを構成する幾重にも交差した魔法力場に作用して効果を消失させるためには、呪いの働く場全体に等価な反魔法力場をかけねばならない。必要なポイントからポイントへ糸の様に掛けられた呪いの魔法力場に対して、場全体を包み込む様に作られる反魔法力場には何十倍ものパワーを必要とすることは明らかである。そして、この魔法力場消失の過程で放出される短距離寿命の素粒子がアイテムを構成する原子の各種の核力に致命的なダメージを与えることも。結果として呪いの解除とともに、アイテムは塵に変わることになる。
※ここでコマーシャル。あまり表現が臭くならないように。
※あとでボルタックの店に宣伝代の請求を忘れないように
さて。呪いの解除に必要な魔法力(『神々の食物』マナと呼ばれる)を得るためにボルタックの店では若い乙女を常に募集している。
※以下の話はオブラートに包んで。微妙な話題ゆえ
処女の場合には特に高い給料を払っている。特殊な魔法に使えるためである。最近は他の国からの冒険者の流入のために、ウィザードリイの世界でも処女は品不足の傾向が見え始めている。心当りの方はボルタック交易所まで御一方を。勿論、魔法大学の見地から言えば、童貞でも同じ効果が得られることは間違いない。
弱い呪いのアイテムに対しては、この乙女らの血の一滴ほどでたいていは間に合うが、ダンジョン深いところで発見される様な強力な呪いのアイテムに対しては、彼女達を完全に殺し、その際に放出される全生命力を使用する必要がある。勿論、彼女達はカント寺院で復活して貰えるが、状況により復活に失敗することもある。
どうやら、諸君にも何故こんなに呪いの解除に金が掛かるか理解して頂けたものと思われる。これらの金額の中には、彼女達の人件費及び人権費。復活費用。もしもの場合の遺族への報償積み立て金、ボルタックの技術料などが含まれているわけである。
ここで忠告。貴重な乙女の命を花と散らしたくなければ、欲をかいてつまらなそうなアイテムを装着しないこと。
御静聴を感謝する。 ---キリア・イブド・メソ