SF短編銘板

ファーストコンタクト3(閲覧注意R18)

 ファーマル星人のお付きの新国連異星高等弁務官になって以来、傭兵だった俺の人生は普通の社会人の生活になった。
 おまけにこの職業は物凄い高給だ。ことファーマル星人に関する政府の予算は無限に近い。その見返りがそれ以上のものだからだ。
 ファーマル星人は超科学技術を持っているし、人類と比較するのが無意味なほどの資産を所有している。その支配宙域は半径三千光年に及ぶ。
 大きくて賢くてそして大ボケなゾウリムシ型宇宙人。それがファーマル星人だ。

 諜報員時代も傭兵時代も定時で帰るなどという一般人の生活ができるなんて想像すらしなかった。
 そんな俺が今じゃ立派な会社員様だ。電子認証が入っているバッジを掲げてオフィスを出る。これで勤怠はちゃんと記録される。

 さあ待ちに待ったこの日だ。俺は足早に歩いた。
 ファーマル星のアンドロイド・ジョージが俺のすぐ後ろをついてきているのに気づいたのはその時だ。ジョージは見かけ上はどこにでもいるようなのっぺりした顔の男だ。実際には3つぐらいの顔を使い分けている。その顔も体も可塑性を持ったナノマシンでできていて、自由に変えることができるし、なんなら郵便ポストにだって化けられる。
「うわっ。ジョージ。どうしたんだ」俺は思わず叫んでしまった。
「気にしないでください。今の私はただの観察者です。路傍の小石と同じに扱ってください」
 俺はジョージから目を逸らした。何であろうがジョージの行動に巻き込まれれば今夜は残業になってしまう。そうなればせっかくとった大事な予約もおじゃんだ。
 俺が再び歩き始めると、ジョージは俺の後にぴったりとついてきた。
 その距離は正確に75センチメートル。どれだけ歩調を変えてもそれは変わらなかった。速足になっても、わざと遅く歩いても、いきなり走り出しても同じ。ぴったり75センチメートル。
 背中とお尻のムズムズする感じにとうとう耐えきれなくなって俺はつい訊いてしまった。
「ジョージ、どこまでついてくるんだ」
「あなたの目的地が私の目的地です。ボブ・マーリイ」
 だから俺の本名を使うなって。本当に色々ヤバイんだ。その名前は。
「俺の目的地を知っているのか?」
 俺は尋ねた。

 愚問だった。
 ファーマル星人は人類のすべてを監視し、すべてを知っている。それをもう一万年も飽きもせずに続けている連中だ。何を知っているかと尋ねるより何を知らないのかと尋ねた方が早い。そしてその場合はこの世に知らないものはないという答えが返って来る。ただ一つ、人類のセックスと暴力以外は。それが彼らの人類研究の最大のテーマなのだ。
 人類が絶対に己から切り離すことができないもの。そしてファーマル星人が今まで持つことができなかったもの。
 セックスと暴力。
 巨大ゾウリムシが憧れる夢。俺には理解できない。

 ジョージは何となく得意気な様子で答えた。
「貴方の目的は最高級の秘密売春宿と名高いオー・ラ・サンスーですね。我々が調べたところ、そこでの一晩は素晴らしいものですが、お値段は下手をすれば人間一人の生涯年収に匹敵すると言われています」
 俺の耳の中でマイクロトーキーがさえずった。
「本当ですか、弁務官。なんて不潔な」
 この街のどこかで俺をサポートしているチームの中の誰かだ。今誰が発言したのか、後で必ず探し出してやる。
「余計なお世話だ」
 俺は呟いた。喉マイクがそれを拾い、通信AIがしばらく悩んだ後に、それをチームに伝えた。
「で、そこまでついてきて貴方は何をするつもりなんですか?」
 俺は尋ねた。まさか例のより深いコミュニケーションの対象者を一般人相手にまで広げるつもりなのか。

 ジョージの股間ドリルは一部の熱心な変態たちには物凄く魅力的に見えるらしく、なぜかジョージの電子私書箱には無数の熱烈なファンレターが押し寄せている。だが大抵の一般人はジョージの股間ドリルを見ると悲鳴を上げ、最悪逃げ出す。
 そのたびにこの非礼をジョージに謝るのは俺の仕事だ。だから今では一般人の前では股間ドリルを見せないように逆にお願いしている。

「もちろん、貴方の観察です」ジョージは俺の質問に即答した。「多くの人格パラメータを取得できている貴方が行う深いコミュニケーションの観察はより詳細な情報を我々ファーマル星人にもたらすことでしょう」
 なるほど納得した。つまりジョージは俺のセックスを覗きたいんだ。
 俺はその場で踵を返して走り出した。そのときの俺は百メートルを7秒フラットで走ったはずだ。
 ジョージはそんな俺に楽々と追いつき、俺の背中との間に75センチメートルを保持したまま伴走した。
 慣性制御装置が組み込まれた相手に徒歩で逃げることほど無駄なことはない。レーシングカー相手でもジョージが走り負けることはないだろう。彼はファーマル星人の最高の技術をその体に一杯に詰め込まれた傑作なのだ。
「どうして逃げるんですか?」ジョージが拡声器を使って言った。「我々は貴方の行う深いコミュニケーションを観察したいのです。どうかご協力ください」
 やなこったと呟いたときにマイクロトーキーから声がした。
「逃げては駄目ですよ。ボス。今逃げれば次の回のボーナスは無しになりますよ」
 うぐ。サポートチームは俺の弱点を良く知っている。新国連異星高等弁務官の報酬は凄いものだが、それでも憧れの宇宙戦艦を買うには少し足りない。いま職務を辞めるわけにはいかないのだ。
「それについ先日に新国連で五惑星植民計画が発表されたところなんですよ。ここでファーマル星人の機嫌を損ねてそれが中止にでもなってみなさい。ボス。あなた、命どころか死体の欠片一つ残らないことになりますよ」
 畜生。俺は悪態を吐きながら足を止めた。

 五惑星植民計画はファーマル星人から人類への贈り物だ。彼らは一万年も前から有望そうな惑星を見つけては人類のためにテラフォーミングしてきた。そのうち最初の五つが人類へ譲渡されるのだ。現在、地球各地では超光速宇宙船の建造と植民する人間の募集が大々的に行われている。
 俺もその植民募集のパンフレットを見たことがある。今の地球にはもう存在しない青い海に、今の地球にはもう存在しない青空が広がる素晴らしい手つかずの大地だった。地球ではすでに絶滅した多くの動植物が配置され、完璧な生態系が維持されていた。
 生命で一杯の希望に溢れた惑星。違いは衛星が一つではなく二つ浮かんでいたり、太陽の色がやや青みがかっていたりとかだ。
 その計画が頓挫すれば、世界政府の怒りはどこへ向かうか。考えただけでも恐ろしい。

「いいですか。ボス。責任を果たしてください。我々は貴方の骨格指紋からDNAパターンまですべて知っているんです。逃げることはできませんよ」それから少し間を置いてから静かにあの名前を続けた。「ボブ・マーリイ」
 俺の肩ががっくり落ちた。もう受け入れるしかない。
 ジョーシは力の抜けた俺の腕をつかむと専属の無人車に優しく押し込んだ。そして無人車は全力で秘密高級売春宿オー・ラ・サンスーへと向かった。



 秘密高級売春宿オー・ラ・サンスーはオフィス街のど真ん中にある高層ビル一棟を丸ごと使っている。もちろん表向きはただのオフィスビルだ。原則として会員制で新規に参加する場合は現会員の三人による推薦を必要とする。
 もちろんここでの一晩のお値段は目の玉が飛び出るほどに高い。
 俺も今の仕事をするようになってからようやく利用できるようになったぐらいだ。
 だが、ここに用意されている女性たちはいずれも絶世の美女たちだ。もちろん別の趣味の人間のためには絶世の美青年も用意されている。さらに別の趣味となるとここの地下階層にということになるが、例え薦められても俺は足を踏み入れたことはない。何が出てくるかそれが怖いからだ。

 偽装された受付デスクを通り抜けると、上層階へのエレベータに乗り込んだ。
 アンドロイド・ジョージの本当の体重なら確実にエレベータの重量制限に引っかかるはずだから、ジョージは慣性制御装置を使って自分の重量を減少させているのだろう。
 静かなチャイムと共に、秘密売春宿のエントランスについた。ここには基本受付しかいないが、無数の隠しカメラが客を値踏みしているのは間違いない。
 ここの女主人が無数のアクセサリに包まれた青いドレスを着て出て来た。つけている宝石はすべて本物だ。彼女がつけているものだけでも、パリの高級ストリートで宝飾店を一つ開くことができるだろう。

「ご予約のジョージ様ですね。お待ちしていました」
「あれ? バストンで予約していたと思うが」
 バストンは俺が普段使う偽名だ。
「あなたの予約は取り消しておきました。代わりにこの館はファーマル星大使館が一日全館を貸し切っています」
 それがどれだけの金額になるのか考えて俺は空恐ろしくなった。もっともファーマル星人の資産は地球にあるあらゆる資産のすべてを集めてもその一端にさえ届かないのだから、こういう無茶はお手のものだ。
 恭しい態度と共に館の奥に通された。広いラウンジ一杯にありとあらゆる国の美女たちがずらりと並んでいた。その全員が俺に蕩けるような笑みを向ける。
 その中に外見はただの人間にしか見えないジョージに向けた視線が一つもないのを知って、あらかじめあらゆる根回しが済んでいることを知った。俺だけが本当の意味での客であることを全員が理解しているのだ。
 ジョージが大きな良く通る声で言った。
「さあ、バストンさん。好きな子を何人でも選んでください。全員でも構いませんよ」

 屠殺場に引かれていく牛の気持ちがよくわかった。何なら本にして出版してみせてもいいぞ。
 今夜は楽しい時間になる予定だったのにと俺は独り言ちた。どうしてこんなことになる?
 何人かの美女が前に進み出ると両脇から俺の腕を取った。
「最初はあたし」
「ずるい。あたしが先に掴んだのよ」
 なるほどと合点が入った。俺との順番に何か賞金が出ている。それも半端じゃない額が。ここの女の子たちは厳しく条件づけされていて普段はこういう積極的な動きには出ないものなのだ。つまりこの二人はルール無視のフライングをしたわけだ。
「ええい!」
 俺はその二人の腕を逆につかみ返した。
「君たちでいい」
 女たちがざわめいた。目の前で賞金を掻っ攫われたプレーヤーたちのざわめきだ。
「待ってください。ミスター・バストン」
 ジョージが割って入った。
「女性の選択はあくまでも貴方が冷静に考えて選ぶ必要があります」
 俺の目の前が一瞬ボケた。ジョージが何を言っているのか理解できなかったからだ。
「どうして?」
 俺の問いにジョージは淀みなく答えた。
「エルン・ガラッパルの公平性に影響するためです」
「エルン・ガラッパルって何だ?」
「簡単に言えばファーマル星人の間で行われる賭博です。ただし賭けられるのは通貨ではなくて、社会的地位です。つまりより予測能力の高い者がより社会の頂点に位置するべきだという考え方です」
「そうするとつまり、俺がどの女性を選ぶかで賭けをしているのか」
「これはファーマル星人に取っての一大イベントなのですよ。このために我々は長い時間をかけて準備してきました。もちろん、今夜の貴方のあらゆる行動そして結果に対して実に様々なエルン・ガラッパルが用意されています」

 なんてえこったい。俺はギャンブルの駒なのか。
 うんざりしたので美女たちの中に飛び込み、目を瞑って二人ほど引っ張って来た。
「彼女たちで決まりですか?」とジョージ。
「彼女たちで決まりだ」と俺。

 一瞬ジョージの動きが止まった。その金属の頭蓋骨の中で超光速通信機を作動させ、すべてのファーマル星人に賭けの結果を送信しているのだ。それに必要なエネルギーは人類が文明を持ってから使い続けたエネルギーの総量を優に越えていると教えて貰ったことがある。
 すぐにジョージの動きが元に戻った。
「集計結果がでました。今回のエルン・ガラッパルの結果で最大の地位変動を見せたのはフラン星の総督ジャンジャラヒムトです。ダーマル文化圏でも相当に有名な総督でしたがこの失敗により今は元総督となり、路上生活者として放り出されました」

 もういい加減にしてくれ。俺はベッドがある部屋への扉を押し開けた。

「今のドアの選択結果により、もう一つのエルン・ガラッパルが決定しました。最大の地位変動はブラマルイナ星のフィージャックパレパレです。今後の彼には大陸一つの統治が任されます」

 本当にファーマル星人は大ボケの馬鹿野郎だ。俺は後ろ手にドアを閉めたが、それでもジョージを追い出すことはできなかった。ドアの横の壁が分子崩壊しジョージが踏み込んで来たからだ。もちろん壁の賠償金程度などジョージに取っては屁でもない。

 スーパーキングサイズのベッドの上で一糸まとわぬ裸になった美女たちがほほ笑んだ。媚薬と香水の匂いで頭がクラクラする。
 俺は嫌々ながら服を一枚づつ脱いだ。
 ふと思いついて背後の壁際にじっと立っているジョージに声をかけた。
「なあ、ジョージ。いま君の頭に接続しているファーマル星人は何人ぐらいいるんだ?」
「これは我々に取ってかなり大きなイベントなのです。そのため現在私の全感覚を共有しているファーマル星人は・・2兆4000億体ほどです。端数もお聞きになりますか?」
 全身から力が抜け俺は膝から崩れ落ちた。ジョージに向けた自分の裸の尻が恥ずかしかった。
 今、2兆もの巨大ゾウリムシが俺の股間を注視している。そう思うと止めようも無く俺のモノは縮こまってしまった。

「どうしたのですか。ミスター・バストン。元気がないようですね。どうか我々のことは気にせず進めてください」
「できるかああ!」俺は叫んだ。
「できないのですか?」とジョージ。
「無理に決まっているだろう」
 ジョージが静かになった。その頭の中で何千光年先の星との超光速通信が飛び交っている。
「特例なのですがエルン・ガラッパルは中止されました」
 俺の肩から力が抜けた。安堵感で胸がいっぱいになる。なんだ。ファーマル星人にも多少は良識が残っているじゃないか。
 そんな俺の心を読んだかのようにジョージは続けた。
「そして新しいエルン・ガラッパルが提起されました」
「なに!?」
「新しい条件では薬の使用が認められます」
「何の薬だ。何の」
「第二次世界大戦時にドイツではさまざまな薬品が開発されました。その中に人間を色情狂に変えてしまう薬がありました。我々はそれを研究し、薬理構造を解析し、究極とも言える興奮剤を作り出しました」

 それはいったい何のためにだ?

「待て。マテ。まて。ちょっと待て。その薬は安全なのか?」
「大変に危険ですが問題はありません。我々にはファーマル医療技術があります」
 つまりは死んでも生き返らされるということだ。
「いい加減にしろ。ジョージ。俺の体を何だと思っている!」
 ジョージは平板な声で返してきた。
「より深いコミュニケーションに係る実に大変に重要な観察対象です。我々が貴方を弁務官に選んだ基準を何だと思っていたのですか?」
「ボス。もう諦めてください」今度は耳元でマイクロトーキーが囁いた。「ジョージは感情を表に出しませんが、もしこれで五惑星植民計画が潰れたら、ボスの命は終わりです。たぶん、うちのチームの連中も無事では済みません。ボスの立場に同情はしますが先に進む以外に道はありません」

 それを聞いて俺はついに諦めた。ジョージが差し出す錠剤を取るとボリボリと噛んで飲み下した。
「もっとだ」俺は言った。
「はい?」とジョージ。
「もっと薬を寄越せ」
 こうなればファーマル星人がやっている賭けを無茶苦茶にしてやる。
「危険ですよ」そう警告しながらもジョージは新たな錠剤を差し出した。ジョージとしてはこれを飲んで俺が死んでもすぐに生き返らせれば済むことなのだ。
 ガリガリボリンボリンと音をさせてイチゴ味の錠剤を噛み砕いて飲み込むと、どこか体の奥から強烈な熱が湧いてきた。
 止めようのない強烈な衝動。俺は天高く目指して屹立した。今ならば月にだって届く。
 頭にぼうっと靄がかかり、俺は大笑いをしながら全裸の美女たちが待つベッドへとダイブした。

 途中で体力の限界に達した女性たちを三度変えた。最後にはラウンジで待機していた美女たちを全員部屋の中に呼び入れた。
 ベッドにも床にも廊下にも汗だくで疲労の余りに動けなくなった女性たちがごろごろと転がって寝息を立てている。
 ここは天国なのか地獄なのか。もう俺にも分からない。
 壁際のジョージは俺の体調をモニターし、絶頂に達した回数を女性毎と総数に分けて空中に数字として投影していた。その数字の周りを彩っているのは賭けの倍率なのか。
 この数字のすべてが複雑な賭けの結果へとつながる。恐らく人類が行うどんな賭博よりも遥かに複雑なギャンブル方式だ。そしてその結果を左右するのが俺のセックスなのだ。
 もう駄目だと思うたびにジョージから錠剤を毟り取ると口の中に放り込んだ。
 ついには何十人という女性の全てが床を這いながら俺から逃げ出し始めた。

 記憶があるのはそこまでだった。



 疲れた。
 俺は裸のまま床に倒れ込んだ。全身の水分が抜けてカラカラだ。ミイラの気持ちが良く分かる。砂漠だ。俺は砂漠にいる。そして干からびている。
 目が霞む。天井の照明が黄色く見える。
「がんばりましたね。凄い記録ですよ。長い人類の歴史の中でもこれほどの回数に達した人間はいません」なぜかうれしそうにジョージが言った。
「だれか賭けの勝者はいるのか?」
 うう、声が掠れている。俺はもうすぐ死ぬ。
「ええ、三体ほどが見事に当てました。彼らはこの後、各自治体のトップに組み込まれる予定です。一体は三惑星系の王となります」
「そりゃよかった。お役に立てて嬉しいよ」心とは裏腹に俺は賛辞を送った。
「これを伝えておかねばいけませんね。貴方はファーマル星の偉大な業績を上げた者だけが所属することができる汎銀河雄大記念アカデミーの名誉殊勲者の座を得ました。人類にはきっとそれがどれほど大きな栄誉なのかを理解するのは難しいでしょうね」
 そんなもの理解なんかできるか、馬鹿野郎。もっともそれを口に出しはしなかった。なにぶん相手は俺の雇い主だ。
「貴方の今日の行動のすべては完全映像音声触感付き記録に納められ、汎銀河雄大記念館に飾られることになります。そして望む者は誰でもそれを自由に閲覧することができるようになります。この宇宙が終わるその時まで、今夜の貴方の姿はそこで燦然と輝き続け、再生を繰り返されるのです。ああ、何という名誉。ああ、何という喜び」

 頼むから、もう、勘弁してくれ。全宇宙が未来永劫、俺のケツの穴を見るというのか。

「待て。そこまでしてくれるのに俺には何の報酬もないのか?」
 たしかにそうだ。これなら植民惑星の一つぐらいは貰えるんじゃないか?
 そう考えて俺の心は奮い立った。
「我々も前回の行動から学びました」
 ジョージが得意そうに言った。
「個人への報酬はほどほどのものに抑えるべきだと。従いまして貴方には次のものが贈られます。すなわちこの秘密高級売春宿オー・ラ・サンスーの一年間無料券です」


 ファーマル星人は大ボケの間抜け野郎だ。
 今の俺が一番欲しくないものがそれだとどうして分からない。
 そこまで考えてから、俺は疲労で気を失った。