来るべきもの銘板

来るべきもの 車でドン

 怪異の話ではないが、珍しいケースだったのでここに書いておく。

 その女性の恋愛相談の結果は、奇妙なものだった。
 『落雷の塔』のカードの横に『女教皇』のカード。恋愛の相談でこのような取り合わせのカードが出た場合、「浮気がばれる」とか、「相手が実はふしだらな人格」などに解釈するのだが、どうも実情にそぐわないので、これは「事故の予告」と捉えた。
 カードが質問に対する答えよりも先に伝えるべきだと考えた場合、このように異なる結果を提示してくる。

 私のカードは心根が優しい。

 さて、事故の予告とすればどのような事故かだ。
 『落雷の塔』は、天空から雷が落ち建物から人が降る絵柄である。意味はそのものずばり突然の事故もしくは災害である。
 『女教皇』のカードは女教皇ヨハンナを示すと言われている。伝説にのみ残る女性の法王で、ミサの最中に子供を出産したために実は女性とばれてしまい、ローマ教皇の歴史から抹殺されたという話の主人公である。意味は、聖なる存在に隠された卑俗、である。
 この二枚のカードから連想される事故となると、レイプ事件しか思い浮かばばい。
 言うのはためらわれたが、カードの解釈は下手に常識に合わせて捻じ曲げるのが一番良くない。
「誰かが貴女をレイプしようと狙っています」
 そう言ってから、ふと女教皇のカードの背後が気にかかった。女教皇の背後に描かれているのは二本の柱。白い柱と黒い柱。二面性を示唆する背景。だが、しかし、奇妙に柱が気になる。
 ああ。判った。
「ごめんなさい。レイプじゃありません。これは、交通事故」
 交通事故なら最初から戦車のカードを出してくれればいいのに。

 私のカードは気が利かない。

 二本の柱は足。だからこれは、足が折れる、の意味だ。両足が同時に折れる事故は車で跳ねられたときの特徴である。車のバンパーに当たって、両足の大腿骨が折れる。もちろん、もの凄く痛い。
「それもただの交通事故ではありません。ここには悪意があります。誰かが貴女を車で轢こうとしています」
 言ってしまった。これじゃ私がお客さんを脅して関心を引こうとする質が悪い占い師みたいじゃないか。
 話を聞いた女性の動きが止まった。
 怒って帰ってしまうかな?
 こちらも反応を持った。
 女性はしばらく考えていたが、一言うなずいた。
「うん、わかった。心当たりがあります」

 ええ!
 あるの!?
 あなたの交友関係はいったい!

 話を聞いてみた。今、ある男から告白されている。その男というのが女性と付き合って振られると、車でその相手を轢いてケガをさせる常習者らしい。

「がんばって逃げます」と、女性。


 しかし、とんでも無い男がいたものだ。そんなことをしても警察に逮捕されないとはいったい?
 オカルトも怖いが、非常識な大人も怖いものなのだ。