大正~昭和怪談銘板

第五話 狸月

 母が短歌人会の友人と出かけていたときの話である。

 小高い丘まで車で出かけて、満月鑑賞と洒落こんだ。
 これほどの満月、歌の一つもものにせねば勿体ない。
「見てみて。綺麗なお月さま」
 母が空を指さす。
「バカ! 月はあっちだ」
 友人が反対側を指さす。

 空には見事な満月が二つ、ぽっかりと浮かんでいたそうな。

 狸が己の技の修練を見せるために行う術の一つ、狸月と言うそうな。