たまに美術館に行く。
平日だというのに凄い人出だ。どういうわけか一室だけ照明が暗くしてある。薄暗い照明の下に、展示されている絵だけが小さなスポットライトを浴びている。
そこに並ぶ絵は怪奇をモチーフにしたものだ。どこかの美術雑誌で見たような絵が並んでいる。なるほどこの種の絵は明るい照明の下で見たら怖さ半減だ。
私は足が悪い。少しよろめいて人にぶつかりそうになり、慌てて謝りながら顔を上げる。
消えた。
今ぶつかりそうになった相手が消えた。
あれ? 幽霊だったのか。さほど驚くこともなく解釈する。
う~ん。私も随分と怪奇ずれしたものだと悪い意味で感心する。
じきに分かった。今この部屋に居る人間の半分が、触れそうになるほど近づくと消える。
そもそも私には霊視能力はない。どうしてこれだけ大勢の幽霊がいっぺんに見えるようになったのか。
自宅に帰ってから調べた。ああ、あそこに展示してあった絵はヒエロニムス・ボスの地獄の絵だ。その他の絵も怪奇をモチーフとしているから、展示室自体が特殊な陰体化を引き起こしているのだ。つまりあの場では幽霊が姿を現しやすくなる。
後日、こんなことがあったよと友人の見える人に説明したら、笑われた。
「そうだよ。美術館とかは特に霊がたくさんいて鑑賞しているよ」
なるほど。美術館もさぞや大変だろうな。
幽霊のお客なんだぜ? 全然儲けにならないわな。
幽霊だけにお足(お金)がない。