親戚の子から聞いた話。
町内会の子供たちが小旅行をして江の島に行った。
不幸にも海水浴中に事故があり、小学一年生の男の子が溺れ死んだ。
それからしばらくの時が経ち、ある噂が聞こえてきた。その男の子の幽霊が出るというのだ。子供たちに取っては興味津々の話題である。しぶる大人たちを説得し、本来の目的を隠したまま再び江の島へと海水浴に出かけた。
問題の幽霊の出るという宿にまんまと泊まることに成功する。
「出るかな?」
「出ないよ。たぶん」
「出ないと面白くないじゃん」
「出たら怖いだろ」
命に対する畏敬など欠片もない会話である。子供たちなんてそんなものだ。
一つの部屋に町内会の子供たち全員が集まっている。
期待と興奮の内に時は進む。やがて深夜になった。
廊下を誰かが走って来る音がした。足音の大きさからして大人ではない。
「来た!」誰かが興奮気味に叫ぶ。
「来た来た来た」誰かが答える。
皆、心の中ではまさかと思っている。足音の主はやっぱり宿の子供でしたとかそんなものだと。
足音が部屋の前で止まった。期待の一瞬。
がらりと障子が引き開けられた。
そこにいたのは死んだあの子。そして叫んだ。
『どうしてオレだけが死ななきゃならんのじゃ!』
部屋の窓が叩きつけるように開き、少年たちの洪水が噴き出した。