Gさんはいわゆる見える人である。これは母方の家系の特徴らしい。
少女の頃、住んでいたアパートの隣のアパートにバイク乗りの高校生が住んでいた。公園で遊んでいると、フルフェイスのヘルメットを被ったその高校生が通りかかり、バイクを角に止めたままよくヘルメットの奥から彼女をじっと見つめていたという。
現代なら通報事案である。
彼女はさすがに身の危険を感じて彼には近づかないようにしていたという。
彼女の夏の一か月は北海道の祖父の家に遊びに行くのが通例であったが、その因縁深い家の中には廊下一杯に広がる大きな女の顔が出たりと、なかなか恐ろしいものがあったそうである。
楽しい夏休みが終わり、家に帰って元の生活を送っていると、またあの高校生がバイクに乗って通りかかる。そして彼女のことをヘルメットごしに見つめるという例の行動を始めた。
そのうち夜遅くに帰ると、高校生のアパートの前にその高校生が蹲っている姿を見かけるようになった。夜遊びが祟って家を閉め出されたのだろう。関わっても良いことなど何もない。彼女はその前を見ない振りをして通り過ぎた。
ここまで彼女は一度もこの高校生の顔を見たことがない。いつもはフルフェイスのヘルメットを被っているし、ドアの前にいるときは座って俯いていたからだ。
そういうことが何度も続き、たまりかねていつもの遊び友達に相談した。
「あのバイクの高校生気持ち悪いよね。つい先日も横を通り過ぎた後に止まって、こっちをじっと見ていたよ」
それを聞いて友達が悲鳴を上げた。
「怖いことを言わないで。あの高校生、夏の間に事故で死んだじゃない」
夏休みの間はGさんは北海道の祖父の家だ。知るはずもない。
事故で死んだ人間はその場に地縛されることが多いそうだが、これはそのまま走り回っている稀有な例である。
今ではGさんは死んだ人と生きている人の見分けはつくようになったそうである。
彼女いわく、死んだ人はどことなく虚ろに見えるそうだ。
ちなみに幽霊と向き合った場合の彼女の対処は基本的にガン見である。恐れを知らない女戦士。それが彼女である。