動物物語銘板

素敵なパンケーキ

 昔むかしその昔、とは言いません。現在のあるところにおサルの群れが棲んでいました。

 ある日このおサルの群れは、幸運にもパンケーキを一つ手にいれました。
 それはそれは美味しそうな大きなパンケーキです。ふっくらとしていかにも美味しそうです。そのうえ、よだれが思わず出てしまいそうになるような、とても良い匂いをはなっています。
 おサルたちの喜んだこと、喜んだこと。見ているこちらが微笑ましくなってしまうほどです。
 さっそくみんなでパンケーキをわけて食べようということになりました。最初のおサルがパンケーキに手をだすと、それを見とがめたほかのおサルが文句をつけ、ついにはおサルたちが入り乱れての大ゲンカになってしまいました。
 そこで出てきたのがおサルたちのボスです。ボスは得意の拳骨をつかっておサルたちの争いを止めたあとに言いました。
「食べ物を奪いあってケンカするのはよくないことだ。ここはどのようにパンケーキをわけたらいいのか、みんなで意見をだしあおうじゃないか」
 なんと素晴らしいことでしょう。まさに民主主義の権化です。ボスザルの言葉がもっともらしかったので、おサルたちは意見を出しあうことにしました。
「おいらが考えるに・・」
 跳ねっかえりでおっちょこちょいのおサルが自分の意見をのべようとしました。
 しかしボスザルがおそろしい目つきでその若ザルを睨みつけると、ただそれだけで若ザルの口は閉じてしまいました。
「こうすればいいと思うのじゃが」
 年寄りサルがいいました。
 その瞬間、どんと地面が揺れました。ボスザルが足を地面に強く打ちつけたのでした。そのおかげで年寄りサルは自分が話そうと思っていたことをすっかり忘れてしまいました。
「あたしの意見としては」
 雌ザルが発言しようとしました。
 ボスザルは耳をふさいで寝たふりをして、雌ザルの発言を無視しました。
 それからボスザルは頭を上げて、みんなに向けていいました。
「だれか意見を持ったものはいないのか? だれもなにもいわないのなら、おれが意見をいうぞ」
 ほかのサルたちはみんな、ボスザルはずるいと思いましたが、その腕にうかんだ力コブをみて黙ってしまいました。
 だれも文句をいわないのをみて、ボスザルは自分の意見をいいました。
「ではパンケーキを二つに割り、一つをおれが食べ、残りをみんなでわけるというのはどうか」
 ボスザルの周囲でざわめきがおきました。不穏な空気を感じて、あわてて二番めの地位のサルがいいました。
「こうしよう。パンケーキを二つにわり、大きいほうをみなでわけ、小さいほうをボスが食べるというのは」
 それほど悪くはない案でしたので、おサルたちは静かになりました。おサルたちが納得したのをみて、ボスザルは約束を実行にうつしました。
 パンケーキを二つの塊にわったのです。それは一方がもう一方よりも、ほんのわずかだけ大きいという割り方でした。
 ボスザルがパンケーキの一方を取ると、おサルたちが騒ぎはじめました。
 不穏な空気を感じて、三番めの地位のサルがいいました。
「じゃあこれでどうだ。みんなで平等にパンケーキをわけよう」
 やっとまともな意見が出たので、おサルたちの騒ぎは静まりました。
「だけどこれだけの大きさのパンケーキを、みんなでわけたのでは、小さなかけらになってしまう。それじゃつまらないから、この最初のひとつはボスと兄貴と俺で食べ、つぎにパンケーキが手に入ったら、おまえたちがすべて食べることにしよう」
 もっともな意見に聞こえたので、おサルたちは文句がつけられませんでした。しかし、ボスザルたちが美味しそうなパンケーキに手を伸ばしたのをみて、そんなに美味しそうなパンケーキがふたたび手にはいることがあるのだろうかと、疑問に思ったのです。
 結果はまたもや会議です。大乱闘にいたらなかったのはおサルたちの平和主義のおかげです。だけど会議はなかなか終わりません。そのわけは、だれもが自分の取り分をふやそうとして、他のおサルのことはちっとも考えなかったせいです。とくにボスザルとその取り巻きたちはそうでした。かれらはいつも高いところにいるので、なんだか自分たちはとても偉大なのだと、素直に信じこむようになっていたのです。
 このおサルたちの様子を空の高い高いところからみていたのはトンビです。おサルたちがパンケーキをそっちのけにして会議に熱中しているのをみて、さっと舞い降りると、パンケーキをつかんでふたたび空へと戻ってしまいました。くちばしにひとかけら、足にそれぞれひとかけら、それでパンケーキは全部です。
 この様子をみていたおサルたちは騒ぎましたがあとの祭りです。くやしそうに空にむかってアカンベーをしてみせましたが、それで空腹がおさまるわけではありませんでした。
 しかし失ってしまったものを嘆いても何にもなりません。おサルたちは別の食べ物を探しにいこうとしました。
 ここで全員を呼び止めたのがボスザルです。
「みんな、会議を続けるんだ。パンケーキは取られてしまったが、パンケーキの所有権そのものはおれたちにある。だからパンケーキの取り分について、ここで決めておかなくてはいけないんだ」
 もっともな意見でした。おサルたちはどこかおかしいと思いながらも会議にもどり、いつまでもいつまでも、存在しないパンケーキの所有権に関する会議を続けました。

 どうしてボスザルとその取り巻きたちは会議を続けたのでしょう?

 それは大勢のおサルたちのまえで威張ることは、ボスザルにとってとても気持ちがよかったからです。そのためには現実がどうであろうが、自分を支えてくれているおサルたちがひどい目にあおうが、どうでもよかったからです。

 このお話には教訓というものがありません。そんなものを与えても、おサルたちにはなんの役にも立たないからです。
 時代が過ぎ去り、おサルたちは進化してホモサピエンスになりましたが、相も変わらず彼らは無意味な会議を続けているのです。
 ほら、彼らの頭上に大きな隕石が落ちてきましたよ。