どうやら俺は死んだらしい。
どこまでも続く白くフワフワしたこの地面は雲の上と思えた。
横には真っ白な翼を見せびらかす天使がいた。
「目が覚めたか。さて君は自分が行く天国を選ばねばならない」
天使は説明を始めた。
「ここは天国の待合室のようなものだ。天国には様々なものがあり、ここにはそれらへつながる橋が繋がっている。君はその内の一つを選んで渡ることができる。ただし一度渡れば戻ることはできない」
どういうことだ?
俺の疑問が籠った視線に気づくと、天使は説明を続けた。
「橋の向こうの様子をこちら側から知ることはできない。すまないな。神様の方針で、天国に入る前にある種の運試しをすることになっているんだ。つまり意思と運の問題なんだ」
返事を待たずに天使は歩きだした。それに連れて周囲の景色も動く。俺がそれに逆らうことはできない。
最初の橋についた。
その橋の前には無数の猫が屯していた。体を舐めている子に顔を洗う子。香箱座りをして目を閉じている子。ヒゲと耳と尻尾の林だ。
猫の国に繋がる橋だ。俺は直感した。そして俺は猫が大好きだ。たくさんの猫に囲まれた死後の暮らし。まさに天国そのものだ。
「ここがいい。ここにした」
天使が驚いたような顔をした。
「ここでいいのか?」
「うん、ここがいい。決めた」
「分かった。人の好みは様々だからな。止めはしない。さあ、心して橋を渡るがよい」
俺は天使の気が変わる前にと慌てて橋を渡った。
長い橋だったように思う。ようやく橋の終わりが見えたとき、俺は自分の間違いに気が付いた。
猫たちは橋を渡るためにあそこで待っていたんじゃない。橋の向こうから大好物の匂いがするから集まっていたんだ。
無数のネズミが俺を出迎えた。