オペレーション・アルゴ銘板

25)エピローグ2

二番目の舵取りのその後)

 手にした指揮棒を止めると、二代目舵取りはセイレーンの一人を指示した。
「そこ! 第三楽章の第二フレーズ。音程が外れたぞ」
 返事の代わりに恥ずかしさで真っ赤になったセイレーンを睨むと、二代目舵取りは最前列に立っているオルフェウスに頷いた。
「大分良くなりましたぜ。オルフェウスの旦那」
 オルフェウスは気難しげに頭を掻いた。
「あのリフレインの部分だが、もう一度、少しだけ高音にして繰り返すべきかもしれない」
 頭の中で音を反芻してから、二代目舵取りも同意した。
「うん、そいつはいい。全体の印象がより深くなるし、次の楽章への期待が上がる。それに第四楽章の入り口なんですが、混成二重合唱を二つのグループに分けて対比旋律にしませんかい。そうすればただ聞くだけだった聴衆を一度宙に浮かせて意識の集中を再度引き起こせる」
「そうだな。そうしよう」とオルフェウス。手早くセイレーンたちに指示を出すと、全体の構成を再調整した。
 もうすぐ全てが完成する。そうすれば、冥界の王ハデスと言えども、オルフェウスとセイレーンの合唱団を冥界に呼び寄せる気になるだろう。あるいはハデスの妻のペルセポネが、この類まれなる音楽を聞きたくて、夫にねだるかもしれない。
 目標はすぐそこだ。オルフェウスは死んだ妻を取り戻し、セイレーンたちは美の女神たちの一員となり、そして舵取りはギリシア歴史上初の楽団指揮者の地位を手に入れる。
 それに何より、素晴らしい芸術である音楽が完成する。これは奇跡という一言でしか表すことができない何かになるはずだ。
「では、リハーサル第三回目。これで決めるぞ!」二代目舵取りが怒鳴った。セイレーンたちが身構える。オルフェウスが竪琴をそっと撫でた。
「一、二の三!」
 指揮棒が振られる。竪琴が奏でられる。セイレーンたちの合唱が始まった。