未だ終わらず怪異銘板

未だ終わらず トウガラシ

 牛丼で有名な店に入り、牛丼と豚汁を持ち帰りで注文した。
 商品が揃うまで一分もかからない。差し出された袋を受け取り、手を伸ばして紅ショウガと七味トウガラシの小さなパックを取り、袋の中へ放り込んで帰路の夜道についた。
 自宅へたどり着きさあ食べようと思って出してみると、紅ショウガはあったが、七味トウガラシの入った小パックがない。袋をひっくり返しても見つからないので、帰り道のどこかで袋から落ちたのかなと考え、豚汁の容器の蓋を外す。
 七味トウガラシの小パックが豚汁の中に浮いていた。
 豚汁の蓋には2ミリ程度の空気抜きの穴しか開いていない。どう考えてもこの穴を小パックが通過できるわけもない。
 つまりこの小パックは、袋の中に放り込まれたときに、プラスチックの蓋をまるでそこに何物もないかのように貫通して豚汁の中に落ちたのだ。

 このところかなり落ち着いてきていたのだが、もしやまた始まったのかと思った。私の周りで物理現象が静かに崩壊を始めているのである。