業が渦巻く怪談銘板

業が渦巻く:死者の説得

 教団内で会員の一人に聞いた話である。

 広島支部の会員の一人に、不治の病にかかっている者がいた。
 死ぬのが怖い、死ぬのが怖い、死んだらあたしどうなるの?
 いつもそう言っていた。
 誰の説得も聞かなかった。
 誰の説話も認めなかった。
 死んだことの無い人がどれだけ死は怖くないと言っても、説得力はないと抗議した。

 怖い。

 怖い。

 こわい。どんどん恐怖は膨らんでいく。

 ある夜、枕元に見知らぬ男の人が立った。もちろん、生きている人間ではない。

「死は怖くないよ」
 そう説得された。

 次の夜は、年寄の女の人が立った。
「死ぬのは怖くないよ」
 そう説得された。

 次の夜は、子供だった。
「死ぬのはこわくないよ」


「だから死ぬのは怖くないの」
 今はそう笑いながら、彼女は近々訪れる自分の死の時を待っている。