聞き語り銘板

猫の園

 Gさんの力は霊視の他には『夢見の力』である。
 彼女は夢の中で様々な啓示を見る。そしてそれが大概は実現する。

 彼女の夢はかならず夢の世界で彼女が住んでいるマンションの一室から始まる。これに例外はない。
 この時点からしてもう普通の人間の夢ではない。そして彼女はそこから夢の中の色々な場所に飛んでいく。
 飛んでいった先には見事な花畑があったりする。美しく香しい花畑。そこにはいつも麦わら帽子を被って花の世話をしている人が一人だけいて、顔は見えないけど花を愛でる彼女の一挙手一動を監視している。

 もし、そこで花を手折りでもしたらいったい何が起きるのだろう?
 花盗人はあちらでは罪にはならないのだろうか?

 夢にはオオカミ様の使いも会いに来たりする。(既に話を公開済)

 ある日、夢の中で足下に一個の箱が届いたことがある。その箱を手に取ると、『あなたのものよ。開けて見て』と声がした。持ち上げて見ると中でガサガサと動く音がする。何かの虫。有体に言えば『蠍』だと直感した。そのまま開けることなく箱を捨ててしまった。
 話を聞いて「それは蟲毒だ」と教えると「蟲毒って何?」と返って来た。

 壺や箱の中に毒虫を多数閉じ込めお互いに食い合いをさせる。最後に一匹残った毒虫を使い呪いをかける。これが中国の古来より伝わる蟲毒の法で、様々に発展しながら今では全世界の闇の世界で使われるようになった呪法である。
 毒虫の糞を相手に飲ませて使うのが今では一般的だが、かっては夢の中に送り込んで使うのが正しいやり方で、その意味ではGさんの夢に送り込んで来たのは古式の呪法を使う古い流派の輩ということになる。

 別にGさんは誰にも敵対しているわけではないが、愚か者たちのマウント合戦はこのような世界でも同じらしく、要らぬところからちょっかいを掛けられるみたいである。もっとも本人には強い守護神がついているし、この手のことには天然なので自然とそして見事に解決してしまうのには多少呆れる。

 そんな彼女が見た夢の中に、ネコの公園があるという。
 彼女の飼い猫が死んだときに、飼い猫の魂を求めて探したときにそこに行き着いたという。
 公園には無数のネコが寝そべったり遊んでいたりして、彼女の姿を見ると全員が尻尾を高くあげてすり寄って来た。飼い猫の名を呼ぶとネコたちは一斉に顔を上げたが、その中に愛しの飼い猫の姿を見つけて抱き上げると、すり寄ってくる他のネコたちを振り切って夢の中の我が家へと連れ帰ってきたという。
 死んだネコたちの行く所というのは本当にあるらしい。
 ちなみに彼女の言によると、ネコにも霊が見えるネコと見えないネコがいるらしい。かっての飼い猫の一匹がそれで、その子が何かを見つめるときはそこに霊がいたという。