馬鹿話短編集銘板

予言

 俺が産まれたとき、迷信深かった親父は当たると評判の占い師の所に行き、俺の未来を聞いた。
 それによると俺はそこそこの運に恵まれ、そこそこの才能に恵まれ、そこそこの人生を送るという話だった。
 どう考えてもただの平凡な人生。
 だが一つ普通と違ったのは俺は火に焼かれて死ぬと予言されたことだった。

 長じて後、親父からその話を聞かされた俺はそのことがトラウマになった。
 火事で死ぬなんて冗談じゃない。自殺マニュアルという本によると焼身自殺はかなり苦しい部類に入る。
 それならば火を使わねばよい。そう結論した。
 基本的に家では油を使う揚げ物をしない。それに加えて家のガスコンロはすべてIH調理器に置き換えた。新築した家には余分な費用を払ってスプリンクラーをつけた。
 消火器は常に予備も含めて二個備えるようにした。
 酒を飲みに行くときは雑居ビルにある店は避けるようにした。入口に火が出たら逃げられないからだ。
 備えあれば憂いなし。
 でもそんな俺の最後は、ある寒い夜に自分で運転していた車がスリップして派手に湖にダイブしたことだった。
 車の中に氷交じりの冷たい水が流れ込み、急速に意識を失いながら俺は思った。
 ちくしょう。占い師め。見事に外れたじゃないか。


 煤の匂いがする暗い部屋の中で目が覚めた。
 俺は死んだはず。そういえば以前に本で読んだことがある。カナダのある冬の湖に落ちて死んだ女の人が、二日経ってから引き上げられて生き返ったという話を。
 俺もその口か。
 ここはいったいどこだ。外に出て誰かを呼ばねば。
 明かりのスイッチを求めて俺は手探りをした。ここは狭い。手の感触でそれが分かった。体の下側に硬いテーブル。左右に何かの管。
 パンと音がして周囲が明るくなって俺はここがどこだかに気づいた。火葬炉の覗き窓が開いたときにはすでに遅かった。


 予言は成就した。